MIFJ’s Newsletter - Week 29, 2025
vol.4 コーヒーの未来は、ほんとうに“コーヒー”だけでいいのか?
『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。
世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。
Insights of the Week
コーヒークライシスを乗り越える鍵は、「多角化」なのか?
世界のコーヒー業界で市場の不安定さが続くなか、「いまこそ“多角化”が必要なのでは?」という問いが、静かに、しかし確実に多くの人の間で語られはじめています。ただの一時的な対応ではなく、長期的な安定を見据えた戦略として。
最近のインタビューで、著名な投資家レイ・ダリオはこんな原則を再確認しました――多角化とは、成長の手段であると同時に、「崩壊を防ぐ」手段でもあると。この考え方は、いま不安定さの中で構造的な歪みが露わになっているコーヒーのバリューチェーンにも、新たな視点を与えてくれるのではないでしょうか。いくつかのプレイヤーには恩恵があっても、多くの関係者にとっては負担となる構造に対して。
私たちが検証を重ねた結果、答えは明確になりました。
一部の人にとって多角化は“選択肢”かもしれませんが、大多数にとっては“必要条件”です。
では、サプライチェーンの各段階で「多角化」はどう考えられるのでしょうか?
コーヒー生産者
気候変動、不安定な価格、労働力不足、政情不安──最もリスクにさらされているのは、生産者です。間作やアグロフォレストリー、自家加工や地域向けの焙煎などに取り組む生産者は、単に付加価値をつけているだけでなく、収入源を一つに依存しない仕組みを築こうとしています。なかには、エコツーリズムや教育、カーボンクレジットといった分野に可能性を見出している人たちもいます。輸出業者・トレーダー:
物流や金融、規制の変動によって柔軟性を奪われがちなトレーダーは、事業の幅を広げようとしています。複数製品の調達支援やトレーサビリティプラットフォームの導入、生産者やロースター向けの付加価値サービスなど、新たな役割を模索しています。ロースター:
利益率は低く、リスクは高く、消費者のロイヤリティも変化しています。サブスクモデルやノンコーヒー飲料、シェアロースティング、ブランドグッズ、コンテンツ制作、コンサルティングなどに事業を広げているロースターは、変化に強い傾向があります。ブランドにストーリーテリングを組み合わせ、D2Cを展開している事業者は、不確実な時代にも柔軟に対応しています。カフェ:
カフェは、消費者にもっとも近く、商品の柔軟性を活かせる点で、この危機下においてユニークな立ち位置にあります。新しいメニューやサービスを試し、すばやく進化できる環境を持つからです。ノンコーヒー飲料やシグネチャードリンク、ペイストリー、軽食、グッズ販売、地域イベントの開催など、コーヒー以外の価値を提供する場として進化しているカフェが増えています。いまや「店頭での体験」と「オンラインでのつながり」は、どちらも等しく重要です。
では、コーヒーの未来は、本当に“コーヒー”なのでしょうか?
もしかすると、違うかもしれません。
「コーヒーを中心に据えつつも、それに固執せず、周囲に価値を築いていく」──
そんなふうに、自分たちのビジネスの価値提案を捉え直すタイミングが来ているのではないでしょうか。これは決して新しいアイデアではありません。でも、過去には「邪道」と見なされてきたことも事実。そして、それが状況を悪化させてきた一因だったのかもしれません。
現代の消費者のニーズに応え、生産者への適正価格を実現していくには、認めざるを得ません。スペシャルティコーヒーがコマーシャルコーヒーとは異なる道を歩んできたとはいえ、「なぜ安価なコーヒーが成り立つのか」という根本的な課題には、まだ答えを出せていないのです。多角化は、あなた自身が直面する「コーヒークライシス」に少し余白を生み出し、未来の選択肢を見直し、より持続可能なビジネスへと舵を切るきっかけになるかもしれません。
Peace Love and Peanut Butter
Lee
Biweekly Feature -1st Pour of Alejandro Cadena-
2025年について話したあのときから、何が変わった?
今年の初め、Caravela CoffeeのCEO アレハンドロ・カデナさんを迎え、「2025年のコーヒー業界」をテーマにした5回シリーズのポッドキャストを配信しました。
当時の時点で、2025年がコーヒー業界全体にとって重要な一年になるのは間違いないと感じていましたが、生産地との関わりが深いアレハンドロさんでさえ、その変動の大きさには慎重な姿勢を見せていました。
あれから半年、想像以上のスピードで、変化が進んでいます。
あのとき話したこと
シリーズの中で、アレハンドロさんとリーはこんなテーマを語り合いました:
グローバル貿易を再構築する構造的な力
サプライチェーンにおける「信頼」のもろさ
生産地と消費国のズレと、その橋渡しの必要性
生産者が不安定な未来にどう備えているか
プレイヤー同士の“分断”ではなく“協働”こそが未来を切り拓く道であること
その後、何が起きたのか?
シリーズ公開後、アレハンドロ氏の懸念を裏付けるような出来事が次々と起きました:
コーヒー価格が数週間のうちに急騰・急落。投機筋は撤退し、ロースターは仕入れをストップ。輸出業者は動けずに足止め状態に。
コロンビアの収穫が遅れ、気候不安や物流の課題が改めて浮き彫りに。
中南米の通貨変動により、輸出業者や農家の利益が圧迫され、日本を含む輸入側では仕入れコストが上昇。
CQIとSCAによるQグレーディング制度に関する発表が、制度や組織への信頼をさらに揺るがすことに。
そして何よりも大きいのは、こうした状況にもかかわらず、関係者同士の連携はバラバラのままで、本来必要な「共通の意思決定」がなかなか進んでいないということです。
これから、どうする?
あのシリーズで語られた内容は、いまの状況を見れば見るほど、当時以上にリアルで切実に感じられます。日本のロースターやインポーター、小売に携わる皆さんにとっても、あの対話はもう“未来予測”ではなく、いまこの瞬間の意思決定を支える“現実的な視点”になっているのではないでしょうか。このシリーズをもう一度、“予測”としてではなく、“これからをどう乗り越えるか”のヒントとして、ぜひ見直してみてください。
シリーズの各エピソードはこちら:
リスク回避とリスク分散について
たとえば、半年後にコーヒーの価格が上がりそうだとか、円安が進みそうだという情報があったとします。そういうとき、どう行動しますか?
おそらく多くの人が、「今のうちに必要な分を買っておこう」と考えるのではないでしょうか。これは、起こる確率が高いリスクを事前に避ける「リスク回避」の行動です。日本人は、こうした“確実性の高いリスク”に対しては、比較的素早く行動できる人が多い気がします。私たちにとっては、ある意味「基本動作」に近いのかもしれません。
一方で、「価格が上がるかもしれないけど、今すでに結構高いし…半年後には逆に下がるかも?」といった不確実な状況ではどうでしょう。こうなると、「結局どうなるかわからないし、動かないでおこう」と様子見を選ぶ人が一気に増える印象です。
でも、これは「リスクに備えている」のではなく、ただ見ているだけ。リスクを受け入れた上での“分散”ができていない状態です。これは、事業の多角化ができていない状態とも似ています。一つの方向にリスクが集中しているのに、何もしていない。ある意味、それが一番危うい状態です。つまり、日本人は「起こりそうなリスク」を避けるのは得意だけど、「起こるかどうかわからないけど、起きたら大きいリスク」に対して、リスクを分散して備えるというのはあまり得意ではないのでは?と感じることがあります。
たとえば、Caravela Coffeeのアレハンドロさんは、そういう不確実な状況だからこそ「迷わずヘッジすべき」と言い切ります。半年後に価格が上がる可能性があるなら、今のうちに必要な分は押さえておく。ヘッジの方法がわからなければ、商社に頼るべきだと。私もこの考え方には共感しています。実際、大手商社はマーケットに関係なく、基本的に仕入れ価格をしっかりヘッジしています。コーヒーのように変動要因の多い商材では、価格まで不安定にしてしまうと、他のリスクへの対応まで追いつかなくなるからです。そういえば、中国のラッキンコーヒーがブラジルと5年の購買契約を結んだという話も、まさにそういう動きの一つだと思います。
この話は、金融のアドバイスが目的ではありません。
ただ、日本人には「わからないことに対して何もしない」傾向があることを、少しだけ意識してみてもいいのではないかと思っています。
自戒の念も込めて。
Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke
このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。