MIFJ’s Newsletter - Week 30, 2025

vol.5 スペシャルティコーヒーに、まだ「価値」はあるか?

『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。

世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。


Insights of the Week

日本のスペシャルティは大きな波に備えられているか?—世界的な価格高騰の中で考える—

いま、世界のコーヒー業界は大きなプレッシャーにさらされています。Cマーケットでは先物価格が再び上昇。さまざまな理由から、生産者はスペシャルティコーヒーから離れる動きを見せています。一方、多くの国のロースターたちは、原材料からエネルギーまで高騰するコストに苦しんでいます。そんな中で、日本のコーヒー業界は比較的“安定している”ように感じられるかもしれません。

その理由は、日本独自の業界構造にあります。

市場の大部分はスペシャルティ領域の外にいる大手4社が占めており、その下に、小規模な独立系のロースターやインポーターがスペシャルティ市場を支えています。けれど、日本にはその中間層――世界的な変化をいち早く吸収して動く“ミドルクラス”の企業がほとんど存在しません。そのため、多くの日本のスペシャルティ関係者は、まだ世界の不安定さを肌で感じていないかもしれません。

でも、それは「このまま何も起きない」という意味ではありません。

現地ではいま、より早く確実な支払いが得られるコモディティ市場に、生産者が流れ始めています。スペシャルティには手間もリスクもコストもかかりますが、そうした条件を受け入れられる余裕が、生産現場では減っているのが現実です。ロースターも同様に、輸送費や電気代などさまざまな負担が増し、生豆の購入を控える傾向が出てきています。

では、このような変化が本格的に日本にもやってきたとき、私たちはどう備えるべきなのでしょうか?いまだからこそ、視野を広げて、産地の変化、国際物流の動き、そして世界の消費者のニーズを知ることが大切です。変化の波が本格的に押し寄せる前に、できることはたくさんあります。この情報が、皆さんの次の一手を考えるヒントになれば嬉しいです。

Peace Love and Peanut Butter

Lee


Biweekly Feature -1st Pour of Thai Dang -

今週のポッドキャストでは、ベトナム・ホーチミン市にある「96B Cafe and Roastery」のThai Dangさんをゲストにお迎えしています。Thaiさんはロースターでありカフェオーナーでもあり、現在のベトナムにおける新たなスペシャルティコーヒー文化を牽引する存在のひとりです。今回のシリーズでは、ベトナムにおけるスペシャルティコーヒーの現状や、カフェ経営におけるリアルな課題、そして市場の変化がサプライチェーン全体に与える影響について、率直に語ってくださいました。

なかでも印象的なのは、Thaiさんが「意味のある持続可能なビジネス」を本気でつくろうとしている、その真摯な姿勢です。気候変動や価格の変動、消費者行動の変化といった外部からのプレッシャーが強まるなかで、「スペシャルティコーヒーを継続可能な形で未来につなげるには何が必要なのか?」——その問いに対して、Thaiさんは地に足のついた、実感をともなった視点で答えてくれます。

ベトナムのスペシャルティコーヒーの「今」を知る、示唆に富んだシリーズです。ぜひお楽しみください。

シリーズの各エピソードはこちら:

  1. ベトナムのスペシャルティコーヒー

  2. ベトナムは成長中のスペシャルティ市場

  3. ベトナム産スペシャルティコーヒーの取引

  4. ベトナムのコーヒー市場の変動性

  5. ベトナムのコーヒー消費者


スペシャルティコーヒーの「価値」を問いなおすとき

スペシャルティコーヒーの「価値」とは何でしょうか。

この問いを改めて考える機会が増えています。かつては、「コモディティではない」という相対的な位置づけにより、その価値は明快でした。カッピングスコア、品種、生産処理、生産地の名前──それらが付加価値となり、価格に反映され、結果として生産者と消費者の双方にメリットがもたらされる。そんな循環が期待されてきました。

しかし、現実にはそのサイクルがうまく機能しなくなってきています。スペシャルティであっても、生産者がそれによって経済的に報われるとは限らない。輸送コストや為替の変動、気候リスク、マーケットの不安定さ。そうした要素が複雑に絡み合う中で、「良いものをつくれば、良い値がつく」というロジックは、もはや成立しづらくなってきています。

そして消費国側でも、必ずしもスペシャルティである必要がないという現実があります。大量販売や価格競争の文脈では、甘く加工したコーヒーや手軽な一杯の方が、ビジネスとしては効率がよい。これは、スペシャルティにしかない「金銭的価値」が揺らいでいることの表れでもあるでしょう。

では、それでもなお、スペシャルティコーヒーに価値はあるのか?もしあるとすれば、それは「相対価値」ではなく、「絶対価値」としての存在ではないでしょうか。誰かと比較して優れているというのではなく、それ自体に意味があるもの。たとえば、

  • 生産者とつながることで得られる関係性

  • 一杯の背後にあるストーリー

  • その土地・その人にしか表現できない味わい

  • 知識や感性を使って選ぶ、という行為そのもの

こうした「絶対価値」は、数字や価格では測りづらいものです。でも、そうした測れない価値を信じられるかどうかが、これからのスペシャルティコーヒーに関わる私たちに問われているのかもしれません。

そして、これはひとつの問いとして皆さんに投げかけてみたいと思います。

スペシャルティコーヒーの「絶対価値」は、あなたにとって何でしょうか?

Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke


このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。