MIFJ Newsletter - Week 36, 2025
vol.8 品質はスコアじゃない。じゃあ、何?
『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。
世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。
Insights of the Week
統合 ― コーヒー危機の次のフェーズ
大手企業がコーヒー業界で買収や合併を進めています。その結果として、サプライヤーは数が減り、より大きな力を持ち、条件は厳しくなり、一部カテゴリーではリードタイムも長くなる見込みです。とはいえ、プラス面もあります。物流はより安定し、大手からの資金やサポートも増える可能性があります。自分のマージンを守り、選択肢を広げたままにしておくことが重要です。
いま何が起きているのか(平たく言うと)
大手のトレーダーやブランドが統合したり、オーナーが変わったりしている
経営難に陥った資産が、体力のある企業に買い取られている
コンプライアンス規制(トレーサビリティ/森林破壊防止)が固定費を押し上げ、規模の大きさが有利になっている
資金繰りが厳しい中、資本力のある企業がより多くのディールを勝ち取っている
小規模事業者にとっての意味
選択肢が狭まる。これまで4~5社と取引できたのが、2~3社に減るかもしれない
力関係が変わる。条件や仕様、納期は大手が主導する
変動性は残る。価格は動き続けるが、大手はリスクをより上手く管理する
書類仕事が増える。データや監査が増え、書類が完璧でないと待たされることも
業態別の影響
ロースター&インポーター
カウンターパートが減少。大手サプライヤーがペースと製品構成を決定
仕様や支払い条件は厳しく、MOQ(最低発注量)は増加
運転資金の圧迫。前払いやマージンが増え、与信付与先は選別的になる
製品構成がシフト。ボリュームロットが優先され、マイクロロットの供給は不安定に
オペレーションの現実。物流はより信頼できるが、順番待ちを飛ばす余地は減少
→結論:各主要産地で「メイン+本物のバックアップ」を確保。粗利は酸素のように守れ!
カフェ &小売ブランド
卸価格の圧力。ロースターから価格見直しの頻度が増える
バラエティ減少。定番ブレンドは安全だが、特別ロットは回転が鈍る
リードタイムが長期化。パッケージや機材は大手流通に縛られ、入荷待ちが続く
サービスの統合。パートナーが減るため、しっかり合意書の内容を把握すべき
→結論:メニューは柔軟に、納期は現実的に。ロースターとは早めに話を!
生産者&エクスポーター
買い手の集中。販路が減り、スポット販売は難しくなる
契約順守の徹底。納期や品質違反へのペナルティが厳格に適用
収穫前融資や農業支援は増えるが、厳しいデータ提出が条件
中程度のグレードは圧迫され、プレミアムは認証・トレーサブルロットに集中
書類負担。マッピングやチェーン・オブ・カストディ(流通経路証明)は必須
→結論:買い手は多様化。プレミアム維持にはコンプライアンス強化を!
「統合」は“良い”“悪い”の話ではなく、市場サイクルの仕組みの一部です。つまり「パワーシフト」です。サプライチェーンのどの位置にいるか、誰と仕事をしているかによって意味は変わります。いずれにせよ、もう後戻りはできません。危機の新しいフェーズに突入しました。これまでに自らを守るために取ったステップが、果たして報われるのかどうかが、まさにこれから試されます。
Peace, Love, and Peanut Butter
Lee
Biweekly Feature - Michael Sheridan - CEO, Coffee Quality Institute (CQI)
今回のシリーズは、CQIの代表であるMichael Sheridanを迎えてお届けします。
テーマは、ずばり「CQIのいま、そしてこれから」。
Qグレーダー制度をめぐるSCAとの新しい契約、コミュニティからのリアルな反応、その裏側にある意思決定のプロセス。普段はなかなか聞けない本音トークが展開されます。さらに、Qグレーダー移行のファストトラックやカリキュラム見直しといった具体的な動き、財政面の課題、そして2025年に向けた業界全体への影響まで。
「CQIってどう変わるの?」「それって自分たちにどう関係あるの?」を理解するのにピッタリのシリーズです。コーヒー業界にとって重要な“転換期”を、MichaelとLeeが率直に語り合うこの会話、ぜひチェックしてみてください。
シリーズの各エピソードはこちら:
CQIの沿革とミッション
CQIはどう始まり、どんな課題を解決しようとしてきたのか? そして認証制度はその中でどんな役割を担ってきたのかを振り返ります。SCAとCQIが合意したこと
Qグレーダー制度をめぐる新たなライセンス契約の中身とは? ガバナンスの課題や、関係者にとっての実務的な影響を探ります。Qの変更へのコミュニティの声
Qグレーダーや講師から寄せられた不安や疑問に、Michaelが率直に回答。移行期ならではの混乱や課題についても語ります。CQIのこれから
Qプログラムの変化を受けて、CQIはどんな優先課題に取り組んでいるのか? 成功をどう測るのか? 今後の道筋を見据えます。CQIが長期的に大切にすること
これから数年でCQIはどんな価値を業界に提供していくのか。教育、試験、基準づくりなど、エコシステム全体の進化に迫ります。
コーヒーの“品質”って、誰が決めるの?”
「品質」とは何でしょうか。辞書をひもとけば、それは「品物の性質、生まれつき、物がそれとして存在するもと」と説明されています。つまり、本来は絶対的にそこにあるもの。けれど、人がそこに関わった瞬間に「評価」という軸が入り込み、良し悪しの判断基準となってしまう。そうなると品質は相対的なものになります。「誰にとっての価値なのか」という問いを常に内包し、時代や地域、文化によって揺れ動く。だからこそ、コーヒーのような多様で複雑な産業において「世界基準」をつくることは、本来とても難しいことだと思う。
2004年に確立したQの基準が、20年以上を経てCVAへ移行していく流れも、その象徴と言えます。基準は不変ではなく、時代背景や業界のパワーバランス、トレンドの変化に応じて「解釈」が積み重ねられ、更新されていくもの。今週のシリーズでCQI代表Michaelが語った内容からも、その解釈の裏にある「意図」を垣間見ることができました。
大切なのは、その「意図」をまず理解すること。そして「何がよしとされるのか」を、日本国内でもっと議論することです。議論がなければ、日本が「よい」と考えるコーヒーは、やがて日本に届かなくなるかもしれません。ここで問われているのは、単なるスコアではありません。
「私たちは何を大切にし、どんな価値を提供しようとするのか」
その意思そのものが、品質を形づくっていく。皆さんはどう思いますか?
「よいコーヒー」とは、皆さんにとって何を意味しますか?
Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke
このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。